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論文など

自尊感情は豊かな母子相互作用から

高知新聞「声 ひろば」,2003.11.13
福永寿則 (産婦人科医)


 8日付の本紙に、県立安芸病院の3人の助産師さん達の研究発表についての記事がありました。親が子に出生時のことを話すことが、子どもの自尊心を高めるのに効果的との研究が、全国自治体病院学会で約900題の発表の中から最優秀5点のひとつに選ばれた。自分の出生時の話を聞いたことが「ない児童」に比べ、「ある児童」の方が、家族愛、生命尊重などを肯定する割合が高かった、というものです。
 自尊感情とは、自分自身を掛け替えのない存在として認め、自分自身を好きだと思う気持ちのことであり、県教育委員会による平成14年度「人権に関する児童生徒意識調査」でも、自尊感情の高い子どもほど、いじめや差別をなくそうという行動がみられます。
 ひとつひとつの命の価値が軽く考えられているかのような、また家族のきずなの希薄化が叫ばれる現代社会にあって今、出産およびその後の育児の持つ重要性が注目されています。
 子どもの自尊感情の発達は、出生直後からの豊かな母子相互作用に始まります。子供は、母親から掛け替えのない存在として大事にされ、その愛情を毎日繰り返される具体的な育児行動で示されることにより、自分自身を好きになり、他者を愛する心も育ちます。
 すべての出産が正常分娩とは限らず、帝王切開やその他の異常分娩、あるいは子どもに障害のある場合もあります。しかし、どのような出産であっても、その時の母親の一生懸命さ、子どもを思う気持ち、また、生まれ出る子ども自身の必死の頑張りなどは、等しく存在します。
 子どもの誕生前後を振り返ることは、その子どもにとってだけではなく、きっと、母親・家族にとっても、日々の生活の中で忘れかけていた大事なものを思い出すきっかけとなるでしょう。私も久しぶりに、子どもの誕生時の写真などを取り出してみようと思います。

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