資料室

論文など

―皮膚接触の意義、Hands-offテクニック―


第23回日本母乳哺育学会学術集会から
福永寿則、高知母乳の会会報21号リレー投稿(2009.2.20)



 第23回日本母乳哺育学会学術集会が2008年10月4日・5日岡山コンベンションセンターにおいて開催された。その中の二つの講演について紹介する。

特別講演1「育児における皮膚接触の意義」(山口 創、桜美林大学 心理・教育学系准教授)
 皮膚と心の関係として次のように述べていた。「母子の身体接触の効果については、動物実験によると、スキンシップをした仔ネズミの脳内ではオキシトシンが大量に分泌されることが分かった。この物質は、人との緊密な絆を築き、人を信頼させる役割を持つため、『愛のホルモン』とも呼ばれる。人間はもともと他人を恐れる本能を持って生まれてくる。ところが、母親と十分にスキンシップをしていると、オキシトシンが大量に分泌され、人を信じるように脳が変化し、スキンシップを気持ち良いものだ、と感じるようになる。」
 また、演者は自身の子育ての経験から、スキンシップを何か特別な行為のようにとらえるのではなく、折りにふれてちょっと触る、軽く抱くなどの「ちょい抱き」を勧めていた。

教育講演2「Hands-offテクニック ~手を触れずに授乳姿勢や吸着を援助するために~」(小泉恵子、埼玉県立小児医療センターNICU病棟)
  母乳育児成功のためには、授乳姿勢(抱き方、ポジショニング)と適切な吸着(含ませ方、ラッチ・オン)が鍵となる。授乳介助する時に、援助者が母親に手本を見せようとして、手を出して、母親の代わりに乳房や赤ちゃんを支えて吸い付かせるような仕方をハンズ・オン (Hands-on)という。一方、援助者が母親と児に手を触れずに言葉や模型などで説明し、ポジショニングとラッチ・オンを援助する方法を、ハンズ・オフテクニック(Hands-off Technique)という。
 産後入院中にハンズ・オンを主体に援助すると、入院中はうまく吸い付かせることができても、退院後母親ひとりでは適切な授乳姿勢が取れず、授乳に困難を感じることもある。オーストラリアの Royal Women’s Hospitalは年間分娩数が約5,000件、産後2~3日目に退院する病院であるが、退院後の低い母乳率を改善することを目的としてHands-off Techniqueを開発し成果をあげている。4つのポイントとして、①母と児が正対する、②児の口が正しく乳房に向かう、③乳房をおさえる母の手が児の口に当たらないようにする、④児が大きく口を開けてから吸着させる、があり、乳房模型や赤ちゃんの人形を用いて指導している。児の手を握ってあげると大きな口を開けるとのことである。

 Hands-off Techniqueというネーミングの良さ、新しいもの好き?からか、ハンズ・オンが古い間違った方法であり、ハンズ・オフテクニックが新しく正しい方法であるかのように受け取り、得意げにしゃべる人が当日の会場内にもいた。しかし、重要なことは援助者が「手を出すか、出さないか」ではなく、温かな雰囲気で母親と赤ちゃんの持つ能力を引き出し、母親が自分で授乳ができるように、必要な情報を提供し見守るという姿勢である。ハンズ・オンとハンズ・オフはどちらか一方のみではなく、状況によって選ばれる援助方法である。
 本来母乳育児を支援する上では産後2~3日目の退院は早すぎて好ましくない。その困難な体制の中でRoyal Women’s Hospitalで工夫されたのがHands-off Technique主体の援助方法である。日本のように産後5日前後入院する体制では、おそらく現在多くの施設でされているように、最初は優しいハンズ・オンで開始し、母親と児の状態を見ながら退院までにはハンズ・オフの援助から母親の自立に移行するのが、真に母親と児に優しく、また効果的な援助方法だと思われる。
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