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母乳育児アドバイス

毎日新聞高知版,2004,7,31
高知母乳の会会長 福永寿則
(川村会くぼかわ病院 副院長・産婦人科)


 赤ちゃんに母乳をあげている時、母乳を中止しなければいけないだろうか、あるいは、いつまで飲ませたら良いのだろうか、と悩まれることもあると思います。
 お母さんが病気になった時、例えば風邪をひいた場合、お母さんはその風邪ウイルスに対する特異抗体を作り、それが母乳中に分泌されるため、母乳を飲んだ赤ちゃんはその抗体をもらって風邪をひきにくくなるし、風邪をひいてもひどくならないことが期待されます。
 お母さんが感染した場合母乳中に検出されるウイルスはいくつかありますが、それらの中で、母乳中止を考慮しなければならないウイルスはHIV(エイズウイルス)とHTLV-1(成人T細胞白血病ウイルス)の2つといってよく、その他のウイルスは母乳による赤ちゃんへの感染は考えなくてもよいでしょう。ただ、母乳を介する感染ではありませんが、麻疹や水痘、結核、梅毒などの時も、赤ちゃんへの感染予防に対する配慮は必要です。
 また、お母さんが薬を飲む必要がある場合に、授乳が絶対禁忌とされている薬剤は、抗癌剤、代謝拮抗剤、などのごく限られた薬剤のみです。抗精神薬などの使用時は注意が必要ですが、通常使われる、風邪薬、抗生物質、胃腸薬など多くの薬剤は授乳を中止する必要はありません。母乳をあげることによる赤ちゃんの健康に対する利点は、母乳中にわずかに含まれる薬剤による赤ちゃんへの不利益の可能性を補って余りあります。
 産後1年を過ぎた母乳でもカロリーは約62kcal/dlとほぼ牛乳と同じで、他の栄養価も1ヵ月頃の母乳と大きな差はありません。免疫物質はむしろ増加しており、免疫学的意味も十分にあります。また、授乳の赤ちゃんに対する心理学的利点も重要視され、平成14年4月以降の母子健康手帳からは断乳という言葉が消え、赤ちゃんの発達のペースを大切にした「自然におっぱいの卒業、卒乳」というやさしい考え方に変わっています。
 1990年にWHO/ユニセフは、「母親と子どもが理想的な健康と栄養を得るために・・・ 2歳かそれ以上まで母乳育児を続けましょう」と提唱しています。

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