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論文など

母乳育児の重要性

暮らしの情報238号,2004,8,1
くぼかわ病院産婦人科 福永寿則


 人類が哺乳動物であることからも当然である母乳育児の大切さが、近年あらためて認識されています。
 専門家以外の人の間では、この地球上で人類のみが持つ科学の力の産物、人工乳であってもかまわないではないか、という意見もまだ見られますが、人工乳は所詮母乳の代替品に過ぎません。人工乳の研究がいくら進んでも、母乳の持つ免疫成分や、ホルモンその他の微量成分など赤ちゃんの健やかな成長に重要な各種成分を完全には補うことができません。
 もちろん、母乳分泌が少ない人や、何らかの事情で母乳を与えることができない場合には、人工乳は大きな助けとなります。それこそ科学が人類にもたらした大きな福音です。その場合には、何の罪悪感を感じる必要もなく、赤ちゃんのために人工乳を飲ませてあげれば良いでしょう。
 今、母乳中の成分以上に、「母乳育児」の持つ重要性が注目されています。
 赤ちゃんの心身ともに健やかな成長のためには、赤ちゃん自身が自分が愛されている、大事な存在として尊重されている、と実感できることが必要です。泣けばすぐに来てくれる、あやしてくれて、オムツを替え、抱っこして、おっぱいを飲ませてくれる、このような具体的な育児行動、その時の母親のやさしい声の調子、笑顔を毎日毎日回数多く経験することによって、赤ちゃんは母親の愛情を感じ、自尊感情も育ちます。
 母親自身も、そのような毎日毎日の育児行動を義務的な仕事としてではなく、そのこと自体に喜びを感じるのでなくては、赤ちゃんとの日々がつらいものになってしまいます。
 母乳育児では、赤ちゃんと母親がお互いに喜び・幸せを与え合う「豊かな母子相互作用」が、人工乳の場合に比べて自然に、回数多く、容易に実現されるのです。
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