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論文など

高知県産婦人科医報平成15年度p.40~48.

平成15年度高知母性衛生学会 特別講演要旨



 日時:平成16年2月4日(水)14:00~15:30
 場所:高知県庁正庁ホール
 演題:「お母さんと赤ちゃんのための母乳育児」
 講師:くぼかわ病院 産婦人科 福永寿則


1.母乳育児推進の理由

用語の確認

 「母乳栄養」、これは母乳自体の持つ特質、つまり搾った母乳を哺乳びんで与えても得られる性質に注目したもの。母乳中に含まれる栄養成分、免疫物質、極わずか含まれる各種ホルモンその他の微量成分や、その消化・吸収の良さ、子どものアレルギー発症の問題などに注目して、人工栄養に対比して使われる言葉。
 その後、母と子の絆などの親子関係、子どもの健やかな成長を考える時、単に母乳自体の長所のみならず、授乳行為の持つ重要性が認識されるようになり、「母乳哺育」という言葉が使われるようになった。母の胸に抱かれ授乳される時、児は皮膚と皮膚の直接の接触により、母親のあたたかさ、におい、心臓の拍動など、母親の存在を全身で感じる。
 次に、授乳行為の持つ意味を児の側だけに考えるのではなく、母親に対する作用にも注目して、「母乳育児」という大きな概念ができた。授乳行為は自然に豊かな母子相互作用を可能にし、母子双方にとって大きな意義がある。

母乳育児推進の理由…5つの観点から
 母乳育児は(1)強い子を育てる。これは母乳自身に含まれる栄養、免疫成分のほか、母親から受け取る常在細菌叢などの働きによる。(2)やさしい子を育てる。母乳育児は母と子の絆から出発し、人間愛へと広がり、子どもの心を育てる。(3)頭の良い子を育てる。(4)母親に対する心身脳作用として、母親を育児指向型にする。そして(5)哺乳動物としての掟。母乳育児は人間が哺乳動物であるための生物学的当為である。
 さらに最近では、医学的管理を強調するあまりの医療者側主体の分娩・育児から、母子を主人公とした納得・満足・喜びそして責任のある分娩・育児への転換が求められている。多くの母親にとって、母乳育児は母と子が分娩・育児の主人公であることの、一つの象徴となってきている。
 母乳育児の数多くある長所のうち、特に4つの点につき以下に述べる。

母乳育児と免疫
 初乳だけではなく、その後長く分泌される母乳にも感染やアレルギーを予防する分泌型IgAやラクトフェリンなどの免疫物質、あるいは白血球などがたくさん含まれている。よく知られているように、1970年代に衛生状態の良くない開発途上国に対する人工乳の輸出が増大し、その結果、腸炎、その他の感染症が蔓延し、乳児死亡率の上昇という悲惨な結果を世界中にもたらした。しかし、この母乳による感染予防効果は開発途上国のみならず、衛生環境のよい現在の日本においても、なお認められるものである。
平成6年度厚生省の「断乳(卒乳)の時期が母子の健康に及ぼす影響に関する研究」(南部春生、他)によると、齲歯については、母乳栄養、混合栄養、人工栄養の種類による発症率の差はみられず、35%前後であった。一方、病気しやすい子の割合は、母乳栄養12.8%、混合栄養20.8%、人工栄養37.9%と、母乳栄養の群で有意に低い値であった。病気のため入院した子の割合も、母乳栄養10.7%、混合栄養29.6%、人工栄養31.0%と同様の結果であった。
 また、大阪府立母子保健総合医療センターのデータによると、1996年7月の堺市大腸菌O-157事件では、同じように便からO-157が検出されていても、その子どもの乳児期の栄養状況調査で、生後4か月以上を母乳育児で育った子どもは、混合栄養・あるいは人工栄養で育った子どもに比べて、有意に血便や下痢・腹痛などの症状が少なく、重症化が少なかったという。
 さらに、未熟児医療の分野では、北里大学医学部小児科では極低出生体重児に対して生後24時間以内の早期授乳を開始している。1日に8回、胃の中に挿入した栄養チューブから母乳を注入。1回量0.2~1ml(平均0.5ml)で開始しているが、この早期授乳開始により、児の死亡、重症感染症、壊死性腸炎などの減少がみられ、体重増加が良好という結果が出ている。

母乳育児と心の発達
 母親の胸に抱かれて直接乳房から母乳を飲むという営み、および、母親の声かけ、その他、授乳に随伴する豊かな母子相互作用によって、児は母親の特別な温もりを感じ、人生の中で大切な基礎、つまり「愛する」ということを学び始める。母乳育児は母子相互作用を促進し、児の人間に対する基本的信頼および確かな存在感・自尊感情を育て、母と子の絆から人間愛へと発展し、児の「心」をつくる、と言われている。
 母乳を通じてできた親子関係は、社会的人間関係の基礎となり、母親との肌のぬくもりを通して行うコミュニケーションが、児の最初の社会的活動になる。
 子どもも理解力がつけば愛情も頭で理解できるようになるが、赤ちゃんに分かる愛は「愛の原型」といった、母親のスキンシップを通じて伝わる、やさしい原始的な愛である。泣けばすぐに来てくれて、あやしてくれる、おむつ交換や抱っこ、授乳などが、1日に何回も、そして毎日毎日繰り返される。そのような具体的な愛情ある育児行動により、赤ちゃんは自分が愛されている、自分はこの世に存在する価値がある大切な存在である、ということを実感するようになる。
 一方、毎日毎日繰り返される頻回のスキンシップが大事であるとは言っても、母親・育児する者にとってもそのスキンシップが喜び多いものでないと、育児が負担となり継続されない。母乳育児は母親を育児指向型にすると言われるが、育児する者にも喜びとなり、自然に赤ちゃんに回数多くのスキンシップ・形に現れる愛を与える事ができるのが、母乳育児である。

母乳育児と脳神経系の発達
 母乳には、脳と神経系の発達を助ける成分(アミノ酸の一種であるタウリンや、特殊な長鎖脂肪酸DHAドコサヘキサエン酸、AAアラキドン酸など)が多く含まれている。また、母乳中に含まれる成分以外にも、母乳育児において回数多くおこなわれる抱っこ、授乳などによる母親とのスキンシップは、結果として、触覚その他の知覚神経を介する刺激により児の脳神経系の発達、脳神経細胞間のネットワーク形成を促進する。
 ランセットに掲載された、未熟児のその後を調査した研究によれば、子どもの7歳半~8歳の時の知能指数IQを調べたところ、未熟児のときに母乳を与えられた子どもは、未熟児のときに人工乳を飲んでいた子どもに比べて、IQの点数が高かった。

母乳育児と母性
 生物の生殖の流れから見ると、妊娠・出産・母乳育児は、自然なサイクルであり、母乳を飲ませることは自然の理にかなった健康なことである。直接の授乳行為は母親に対しても快、幸せな感情をもたらし、また、授乳により母親の体内に増加するプロラクチンの作用と相まって、育児を喜びの多いものにする。
 さらに、プロラクチンは母親の身体を、夜間何回も起きなければならないといった、育児に対応できる「効率の良い体質」に変える。細切れ睡眠といって短時間熟睡型のパターンとなり、夜長い時間を眠れなくても、短時間の睡眠を何回かとることにより、睡眠不足はみられない、と言われている。
 次に、母性について少し考えてみたい。
 2002年、岡山大学大学院の産婦人科工藤教授らの報告では、産後1ヶ月の時点で母親の27%が「赤ちゃんの反応を無視した事がある」とし、「ののしった」という人も10人に1人いた。児童虐待につながりかねないこうした行動の背景に、育児に負担感を持ち、赤ちゃんへの愛情をうまく持てないでいる母親の姿が浮かび上がった、と書かれている。
 また、児童虐待も最近ますます大きな問題となっている。2001年度のデータでは、児童虐待の相談処理件数が 23,200件に達し、年齢別では0歳から3歳未満が全体の 20.4%を占めると報告されている。
 それでは、産後1ヶ月までに赤ちゃんを無視したことのある母親は母性が少ないのだろうか? 児童虐待をした母親には母性がないのだろうか?
 「母性」についてはいろいろ言われている。 「母性愛神話」という言葉に代表されるような考え方、母性とは女性を家庭に閉じ込め、育児を担当させるために男性優位の社会が作り上げた文化的概念であるとか、あるいは逆に、すべての正常な女性は豊な母性を持っているはずである、など。
 母性愛、これは「わが子を慈しむ心」。現実に児を虐待する母親がいるわけだから、やはり、すべての母親に豊な母性愛が備わっているとは思われない。しかし、その豊な母性愛に成長する「母性の種」は男性も含めすべての人が元々持っていると思われる。この「母性の種」が豊かな母性に成長するかどうかは、その人の育ってきた家庭環境などの生育歴や、夫婦関係なども重要だが、一番大きく影響するのは妊娠中から出産、産後、育児にかけての母子相互作用のあり方だと思われる。よく言われるが、お母さんを信じきった赤ちゃんの可愛い笑顔には、お母さんの中に赤ちゃんをいとおしいと思う気持ちを引き起こす力がある。
 1995年のルイス・エクソン博士の研究では、母乳による授乳をしなかった母子の虐待率は、母乳による授乳をした母子の38倍に達した、と報告されている。また、レニングラード病院で母子同室制を取り入れたところ、母親の育児放棄率が約半分にまで減少したという。
 したがって、前述の「赤ちゃん無視」や児童虐待は、母親自身の問題というよりも、母親と児を取り巻く産科環境・育児環境の影響が大きく、ある意味、医療者に責任のある医原性の要素も大きいと言える。
 出産直後のカンガルーケアで母親のお腹の上に乗せると、児は緊張が取れた様子で、ほとんど泣かないようになる。母親を感じ、やがて、目を開け、周囲に注意を払うようになる。母親の方も、皮膚と皮膚を直接接して自分のお腹の上に乗った児の重さ、温かさを感じ、その顔や頭、手などを目で見て、「かわいい」とか、だれそれに似ているとか、もう爪が伸びているとか、お母さんも頑張ったけれど赤ちゃんもよく頑張って生まれてきてくれたね、などと声をかけたりする。妊娠中からある程度の母子相互作用はあったが、この出産直後のカンガルーケアから具体的な母子相互作用、児との交流が始まる。そして一緒に部屋に帰り、そのまま母子同室という自然な流れであり、このような幸せな時間の積み重ねこそが豊かな母子相互作用であり、豊かな母性愛を育む。


2.高知母乳の会
 母乳育児推進の運動は世界中で、また日本でも近年ますます盛んになってきている。高知県でも、平成14年11月に高知母乳の会(事務局:田村こどもクリニック、南国市)が結成された。この会は母乳育児に関心のある人は誰でも参加でき、母乳育児についての正しい知識の理解や、お互いの交流を通じて、母乳育児の実現を目指すものである。
 この会の根本的な願いはただ一つ、すべての母と子、その家族の幸せである。そのための支援の方法にはいろいろなアプローチがあるだろうが、高知母乳の会では母乳育児の実現がひとつの大きなキーワードであると考え、高知県における母乳育児推進を目的として、2ヶ月に1回の定例会や会報発行、講演会開催などの活動をしている。


3.くぼかわ病院における母乳育児推進の取り組み
 産婦人科のある病棟は54床の混合病棟で、内科、外科、整形外科、泌尿器科、眼科などがあり、それらの女性患者の入院もある。産科は、主に6床ある個室(バス・トイレつきで、夫も宿泊できるもの)を優先的に使用している。しかし、県外のWHO/ユニセフ「赤ちゃんにやさしい病院」(BFH)認定施設では、個室がなく大部屋での母子同室を行っているところも多く、個室は母子同室の絶対必要条件ではない。
 病棟スタッフは、助産師は1名のみ(病棟看護師長)で、各勤務帯には産科担当看護師1名が配置されている。外来は、看護師1名のみの配置。
 平成15年の分娩数は209件。母親教室への参加も勧めているが、出席率は25.8%(54/209)と低く、特にくぼかわ病院に母乳育児に対する意識が高い妊婦が集まっているわけでもないと思われる。
図1(省略)はくぼかわ病院の退院時母乳栄養率、および1か月健診時母乳栄養率の推移を表したグラフである。平成7年4月の産婦人科開設から平成15年2月までを、その取り組みの内容の変化に伴い1期~6期に分けている。
 まず、退院時母乳栄養率は1期の平成7年は93.8%で、その後やや低下し平成10年1月~9月は85.5%であったが、2期の平成10年10月以降有意に上昇し、6期では98.8%~100%となっている
 また、1か月健診時母乳栄養率も、1期の平成7年62.5%以降やや低下がみられたが、これも平成10年10月以降上昇し、6期は約90%となっている。
 この間の、母乳育児推進の取り組みの具体的な内容は次のとおりである。

(1)分娩直後からの24時間母子同室
 母子同室をするにあたっては、母親の表情を見、声かけをしながら、不安・焦りを取り除き、負担とならないように注意して、母子を見守っている。

(2) 分娩直後からの頻回授乳
 母乳産生を促進するプロラクチンは吸啜刺激により母親の血中に増加するが、2時間後には再び低い値に戻る。したがって、プロラクチンの持続的作用を期待するためには2時間ごとの授乳、すなわち頻回授乳が必要となる。
具体的には、児が泣けば1時間あけずに授乳しても良い、そして日中(母親が起きている間)は児が3時間以上眠っているようであれば、オムツをみたり衣服を整えたりして児を起こし、授乳するように指導している。くぼかわ病院の母親の授乳回数は、出産後24時間以内の平均は9回で、その後は1日に約12回程度である。

(3) 糖水・人工乳追加基準の作成
 次のような基準を作成し、それに則って糖水・人工乳追加の判断をしている。
1.出生体重より10~13%以上減少したもの
2.尿回数が1日に1回以下のもの
3.体温上昇し環境の調整によっても改善しないもの
4.児が泣き止まないなど母親の精神的負担の大きいもの
 ⇒項目1に対しては、医師の指示で人工乳を1日2~4回、授乳後10~20ml追加。項目2、3、4に対しては、医師の指示で5%糖液を追加。
 児の口腔内の乾燥湿潤の程度、尿回数、母乳分泌状況などを参考に、児の状態さえ良ければ、13%の体重減少までは何も追加しないで様子をみている。ただし、低出生体重児の場合は、医師の判断で早めに人工乳を追加している。
 また、糖水や人工乳の哺乳瓶による投与は、児にとって母親の乳首と人工乳首との混乱を引き起こし、母親の乳首から吸うことを嫌がるようになることがあり、これを乳頭混乱と言う。くぼかわ病院では、糖水や人工乳の投与が必要な場合にはスプーンを使用しているが、問題なく児は飲んでいる。
 なお、授乳前後の児の体重測定、すなわち直母量の測定は1回もしていない。

(4) 母親の精神的サポート
 母子同室については、「疲労感が強ければ赤ちゃんを新生児室で預かります。」 また、母乳育児についても、「必要な場合には糖水・人工乳を足します。」「母乳は最初の3日間はあまり出ないのが普通であり、4日目から急に分泌量が増えてきますから大丈夫ですよ。」などの声かけを行っており、母親一人一人の状態を見て、それにあわせて対応している。

(5) 出産直後のカンガルーケア(抱っこ)
 新生児は出生後2時間近くは覚醒した状態にあり、外界への感覚が最も鋭い時期である。また、この時間は母親も分娩直後で意識が高揚しており、まさに母子ともに高揚し、お互いの母子関係を樹立するための短いが極めて重要な最初の時間であると言われている。
 このカンガルーケアの間に、母親は会陰の縫合や清拭などの処置を受けている。立会い分娩をした場合は、このカンガルーケアの間夫も母子のそばについている。夫の意識も赤ちゃんや妻に集中しており、会陰の縫合処置などを気にするなどということもなく、特に問題はみられていない。

(6) 退院時の哺乳瓶・粉ミルクのおみやげ中止
 退院時には母乳栄養が確立していても、退院後1か月健診までに人工乳を追加する例もかなり見られたので、手元にあると人工乳追加の誘惑因子となる哺乳瓶・粉ミルクのおみやげを中止。

(7) 退院後1週間目の児診察(体重測定)

(8) 2冊の本購入の薦め
 母乳育児についての正しい知識を持ってもらうために「新母乳育児なんでもQ&A」1,300円を、母性の形成促進のために「抱かれる子どもはよい子に育つ」1,100円を勧めている。2冊の本は病院に用意しておき、押しつけにならないように注意しながら、予定日を決定した妊娠8週前後の診察時に本の紹介をし、4週間後の次の妊婦健診時に、了解の得られた方にのみ購入して頂いている。

(9) 2つの冊子を作成し配布
 母乳育児について短くまとめた冊子「お母さんと赤ちゃんのための母乳育児」を作成。また、冊子「快適な育児のコツ」を作成し、引き起こし遊びやうつ伏せ遊び、その他、児の生活リズムなどについて説明・指導している。
 以上のような取り組みにより、母子に負担を感じさせることなく、図1(省略)のような母乳率の改善が得られている。このような取り組みが評価され、平成14年8月にくぼかわ病院はWHO/ユニセフから四国で始めて、日本では21番目の「赤ちゃんにやさしい病院」の認定を受けた。


4.母乳育児推進時の基礎知識-現在の考え方-

生理的体重減少

 正常に生まれた新生児の生理的体重減少は、これまでは出生体重の10%以内と言われていた。しかし、最近は13%までは正常と考えられるようになってきており、13%を超えた場合でも、直ちに異常というわけではなく児の状態によっては15%位までの減少では、母乳分泌状況などを参考に人工乳や糖水を追加せずに経過を見る場合もある。

母乳不足の判断
 体重だけに着目すると、WHO/ユニセフでは母乳が足りている目安として、次の3つをあげている。
(1) 生後6か月頃までは1日の体重増加は18~30g
(2) 1週間の体重増加は125g以上
(3) 生後5~6か月で出生体重の2倍、1年で3倍
(4) また、母乳不足が考えられるのは、生後6か月になるまでは1か月の体重増加が500g以下、生後2週間を過ぎても出生体重に戻らない場合
したがって、くぼかわ病院では体重からみた場合、(1)1日の体重増加が18g未満、あるいは、(2)生後2週間を過ぎても出生体重に戻らない場合を母乳不足と考えて指導している。
 また、退院後についての母親への説明では、
(1) 児の様子が元気で、吸啜も強い
(2) 口腔内が湿潤し乾燥しておらず、皮膚に張りがある
(3) 1日の尿回数が5~6回以上である
このような時には母乳は十分出ているので心配ない、と説明している。

卒乳の時期
 今までは、出産後1年位になると、母乳は何の栄養もなくなると言われていたが、これは大きな間違いで、出産後2年たった母乳もその栄養などの組成はほとんど変化なく、免疫学的な利点も引き続きみられる。また、授乳の児に対する心理学的利点も重要視され、現在では「断乳」という言葉が「卒乳」に変わり、「離乳食」という言葉も母乳を離れるための食事というよりも、児の成長が大きくなったため母乳のみでは足らなくなった栄養を補う「追加食」という意味で考えられるようになっている。
 1990年にWHO/ユニセフは、「母親と子どもが理想的な健康と栄養を得るために、生後4~6ヶ月までは完全に母乳だけで、また、その後は子ども達に適切で十分な食べ物を補いながら、2歳かそれ以上まで母乳育児を続けましょう」と提唱している(イノチエンティ宣言)。


5.さいごに
 お産はゴールではなく、赤ちゃんの人生のスタートであり、赤ちゃんを迎えた新しい家族のスタートです。
 「赤ちゃんへ、パパとママと3人で、世界一幸せで素敵な家族になろうね。」
初めてのお産で2845gの可愛い女の子を出産したお母さんが、ノートに書いた一文です。これはすべての母親の願いです。このような思いを持って出会ったお母さんと赤ちゃんです。出産に立ち会う産婦人科医としてはその限りない幸せを願わずにはいられません。そして、そのためにできることが、母乳育児を中心とした、母子相互作用豊かな育児の(スタートの)支援なのです。
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